桜

先日　気がつくと通路にポツンと男性が立ってた。

放心したように立ってたので
一瞬こちらが声をかけるのをためらうほどだった。



静かに声をかけると
少し戸惑ったように
「ここは花屋さんではないのですか？」と聞かれたので
「いえ花屋ですよ」と答えると




「あ・・　じゃあ桜ありますか？」とその方

「申し訳ない桜は今日は入荷してなくて」とワタクシ




「・・・あ　じゃあなんでもいいです。　桜に似たものを
色でも形でも　なんでもいいので
　一輪とか一本とかでも買えるのかな？」とその方


「では桜色のスイトピ－とかどうでしょう？」とワタクシ


「じゃそれでいいです。」






お包みしてる間
男性は見回しながら
ポツポツ話し出す
まるで無言に耐えられないかの様に。





ここは変わった花屋さんですね　とか病院なのにとか
喫茶店みたいとか

そんな彼の言葉に「そうですねえ（笑）」と答えると








「今さっき　オレの友達が死んじゃってね

早く桜が見たい、桜が見たいって言ってたんだけど　
桜も待てないどころか
俺が来るのさえ待てなくて一人で逝っちゃってさ（笑


今行ってきたら
真っ白な病室には　花も何もなくて可愛そうだから　一本だけ飾ってやろうと思ってね　
少なくてホントすいませんけど・・・。」

と言うと　深々と頭を下げた。












見ず知らずの花屋に
言わずにいられなかったその人の
吐かずにいれなかった無念さを
黙って受け取る












桜は美しい花木だが
それだけじゃない



こんなにも人の記憶の中で
性別も年齢も問わず
特別な存在である花を
ワタクシは知らない

だからきっとその人にとっても
特別な意味のある花だったんだろうね




















さくら